認知症の母と感情的になる娘。家族に「穏やかに接してください」と言うだけでは解決しない介護の難しさ

社会福祉士

認知症の方の介護をしているご家族から、相談を受けることがあります。

「母がすぐ怒るんです」

「私もつい怒鳴ってしまいます」

「もう施設に入ればいい!と言ってしまうこともあります」

「どうしたらいいんでしょうか」

認知症の方とご家族が、日常的に言い合いになっている。

そんなケースです。

ケアマネジャーとしては、認知症の方に対して感情的にならず、できるだけ穏やかに接することが大切だと説明します。

しかし、実際の介護現場では、「穏やかに接してください」と伝えるだけでは、なかなか解決しないことがあります。

お母さんだけが感情的なわけではない

今回のようなケースでは、お母さん自身がもともと感情的になりやすい性格であることがあります。

認知症になったから、急に怒りっぽくなったとは限りません。

もともとの性格や、長年の家族関係、これまでの生活の中で積み重なってきた感情などが、認知症によってさらに表面化していることもあります。

そして、介護をしている娘さんも、決していつも冷静でいられるわけではありません。

娘さん自身も精神的な不調を抱えており、精神科に通院している。

そういう状況であれば、感情的になってしまうこともあります。

お母さんが怒る。

娘さんも怒る。

そして、またお母さんが怒る。

お互いに感情がぶつかり合い、家族の中で言い合いが繰り返されていきます。

「お母さんもお母さんなら、娘さんも娘さん」

少し厳しい言い方になりますが、こういうケースでは、

「お母さんもお母さんなら、娘さんも娘さんだな」

と感じてしまうことがあります。

もちろん、これはどちらか一方を責めたいという意味ではありません。

もともとの性格や、親子関係、そして精神的な状態。

そういったものが複雑に絡み合っているため、どちらか一方だけを変えれば解決するという問題ではないのです。

「お母さんに穏やかに接してください」

と言っても、娘さん自身が精神的に余裕のない状態であれば、簡単には実践できません。

一方で、娘さんが感情的に接すれば、お母さんもさらに興奮する。

まさに悪循環です。

「少し離れた方がいいのでは」と思ってしまう

このお二人は、隣同士に住んでいます。

近くに住んでいるからこそ、何かあった時にはすぐに対応できます。

介護をする上では、とても大きなメリットです。

しかし、近くに住んでいることで、顔を合わせる機会も増えます。

そして、顔を合わせれば、また言い合いになる。

そういう状況が繰り返されていると、

「少し距離を取った方が、お互いのためなのではないか」

と思ってしまうことがあります。

物理的な距離を取ることが、必ずしも家族関係を悪くするとは限りません。

むしろ、少し離れることで、会った時に穏やかに接することができるようになることもあります。

ただ、家族には家族の事情があります。

「離れた方がいいですよ」と簡単に言えるほど、現実は単純ではありません。

ケアマネジャーが提案しても、すぐに動けるとは限らない

私は、いろいろな選択肢を提案します。

精神科の受診先を見直してみる。

必要であれば、入院も含めて相談できる医療機関に相談してみる。

介護サービスを増やして、家族が接する時間を減らす。

ショートステイを利用する。

場合によっては施設入所を検討する。

こうした方法を提案することはできます。

しかし、提案したからといって、すぐに実行できるわけではありません。

「兄に相談してみます」

と返事をされることもあります。

もちろん、家族に相談することは悪いことではありません。

むしろ大切なことです。

ただ、そこからなかなか話が進まず、結局、状況が変わらないこともあります。

「私から母に精神科の病院の話をすると、また母が機嫌を悪くするから、兄に相談します」

そういう思いもあるのでしょう。

本人にも、家族にも、それぞれの事情があります。

ケアマネジャーは「正解」を押し付けることができない

ケアマネジャーとしては、

「こうした方がいいのではないか」

と思うことがあります。

しかし、本人や家族が動けないからといって、無理やり動かすことはできません。

どれだけ良いと思う方法を提案しても、本人や家族が納得しなければ、実際の支援にはつながりません。

ここが、ケアマネジャーとして難しいところです。

「もっとこうすればいいのに」

と思うことはあります。

「少し距離を取った方がいいのではないか」

「病院に相談した方がいいのではないか」

「介護サービスをもっと利用した方がいいのではないか」

そう思っても、最終的に選択するのは本人と家族です。

ケアマネジャーができるのは、選択肢を提示し、必要な情報を伝え、本人や家族が動けるタイミングを待つことです。

家族の問題は、認知症だけでは解決しない

認知症の方への対応では、

「否定しない」

「怒らない」

「穏やかに接する」

ということがよく言われます。

もちろん大切なことです。

しかし、家族関係そのものに長年の問題がある場合、認知症への対応方法だけでは解決できないこともあります。

もともとの性格。

親子関係。

これまでの家族の歴史。

それぞれの精神的な状態。

生活環境。

そうしたものが複雑に絡み合って、今の状況ができています。

だから、認知症の方だけを変えようとしても難しい。

介護する家族だけに「もっと穏やかに」と求めても難しい。

家族全体を見ながら、今できることを一つずつ考えていく必要があります。

介護は「正しい対応」だけでは成り立たない

認知症の方に穏やかに接することは大切です。

でも、介護する家族も人間です。

いつも穏やかでいることはできません。

だからこそ、介護する人が限界になる前に、サービスを利用したり、医療機関に相談したり、家族同士で役割を分担したりする必要があります。

そして、時には「少し離れる」という選択肢も必要なのかもしれません。

近くにいることが、必ずしも良いとは限りません。

距離を取ることで、関係が少し良くなることもあります。

「お母さんに穏やかに接してください」

と言うだけでは、解決できない家族もいます。

その背景にある家族関係や、それぞれの性格、精神的な状態まで含めて考えなければ、支援はなかなか前に進みません。

ケアマネジャーとして、できることには限界があります。

それでも、本人と家族の話を聞きながら、その時々でできる選択肢を一緒に考えていく。

それが、私たちにできる支援なのだと思います。

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